政府は、5月22日に「平成29年度食料・農業・農村白書」を閣議決定し、公表した。そのうちから、「第3章 地域資源を活かした農村の振興・活性化(第6節 都市農業の振興を除く。)」の部分を紹介します。
 なお、白書の構成は次のようになっている。

  はじめに

  特集 次世代を担う若手農業者の姿 〜農業経営の更なる発展に向けて
  トピックス1 産出額が2年連続増加の農業、更なる発展に向け海外も視野に
  トピックス2 日EU・EPA交渉の妥結と対策
  トピックス3「明治150年」関連施策テーマ 我が国の近代化に大きく貢献し
        た養蚕
  トピックス4 動き出した農泊

  第1章 食料の安定供給の確保
  第2章 強い農業の創造
  第3章 地域資源を活かした農村の振興・活性化
  第4章 東日本大震災・熊本地震からの復旧・復興


第3章 地域資源を活かした農村の振興・活性化
第1節 農村地域の現状と地方創生に向けた動き
 農村地域の人口減少が全国を超えるペースで進む中、都市部の若い世代を中心に高まりを見せる「田園回帰」の流れを活かし、農村地域に仕事をつくり、移住・定住を進めていくことが重要です。以下では、農村地域における人口等の動向、仕事づくりの取組、「田園回帰」の意識と移住の動向等について記述します。

(農村地域では、全国を超える減少率で人口が推移する見込み)
 我が国の総人口は平成20(2008)年をピークに減少局面に転じ、高齢化率は上昇の一途をたどってきましたが、農村地域の人口は全国を超えるペースで減少が進み、高齢化率も、近年、都市を6から7ポイント上回る水準で推移してきました。また、農村地域では、今後も全国を超える減少率で人口が推移すると見込まれています。
 平成22(2010)年から平成27(2015)年にかけて、総農家数が253万戸から216万戸へと減少する中、1農業集落当たりの平均総農家数は17.6戸から15.1戸へと減少し、また、全農業集落に占める農家戸数5戸以下集落の割合は山間農業地域を中心に高まっています。
 農村地域における農家を含めた住民の減少は、商店や医療機関等の生活関連サービスの撤退や、地域活動の縮小による地縁的なつながりの希薄化をもたらし、これらは就業機会の減少、利便性の低下、魅力の喪失を招くことで、更なる住民の減少を引き起こすことにもつながりかねません。

(生活関連サービスを受け続けられるよう、各地で「小さな拠点」づくりが進展)
 農村地域の住民が生活関連サービスを受け続けられるよう、政府では、地域住民や地方公共団体等が協力・役割分担をしながら、生活サービス機能等を集約・確保し、地域の資源を活用して仕事や収入を確保する取組を「小さな拠点」づくりとして推進しています。まち・ひと・しごと創生法に基づき市町村が策定する地方版総合戦略に位置付けられた「小さな拠点」の数は、平成29(2017)年5月末時点で908か所となり、各地で「小さな拠点」づくりが進展しています。
 また、「小さな拠点」づくりや地域の課題解決を担う住民主体の組織「地域運営組織」の設立も進展しています。同組織の数は、平成29(2017)年10月末時点で4,177団体にのぼり、政府では、量的拡大を図るとともに、質的向上を推進しています。

(農山漁村での仕事づくりに向け、農村産業法等が施行)
 新たな人材を外部から呼び込むことは、農村地域の活性化に向けて一つの契機となり得ます。平成29(2017)年1月に総務省が実施した都市住民に対するwebアンケートでは、農山漁村地域に移住意向のある者に対する移住で最も重視する条件の設問において、「生活が維持できる仕事(収入)があること」との回答が55.8%と最多を占めました。
 農山漁村に仕事をつくるとの施策の方向は、内閣官房の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」や農林水産省の「農山漁村活性化ビジョン」に位置付けられており、政府を挙げてこれに取り組んでいます。平成29(2017)年度においては、農村地域での就業の場の確保に向けて農村地域に導入する場合に支援対象となる業種を拡大した改正後の農工法(農村産業法)と地域の特性を活かした成長性の高い産業の集積を支援する地域未来投資促進法の2法が7月に施行されました。また、施行に際しては、それぞれの法律に基づく基本方針により優良農地の確保を図るための措置が講じられました。このほか、農業関連分野での雇用創出に向けた6次産業化や農泊等の地域内発型産業の育成も進められました。
 地域おこし協力隊の活動も、農山漁村での仕事づくりにつながります。平成28(2016)年度末までに任期を終えた元隊員2,230人の約半数は、活動地と同一市町村内に定住し、宿泊業や農業法人等への就業、古民家カフェ等の起業等により仕事を確保しています。

事例 元地域おこし協力隊員が、こだわりの米づくりを実践(新潟県)

神奈川県横浜市で会社員をしていた宮原大樹さんは、新潟県十日町市で地域おこし協力隊として3年間活動した後、農業法人での研修を経て、平成27(2015)年に37歳で十日町市内で就農しました。
 夫婦で中山間地域の水田1.2haを経営する宮原さんは、自分で全てを行う農業を目指し、自分で作ることのできない肥料や農薬は用いず、農業機械も使用しない米づくりを実践しています。米は差別化が難しい商品なのでシンプルで分かりやすいメッセージが必要と考え、無農薬、無化学肥料、手植え、手刈り、自然乾燥をキーワードに米の生産を行っています。単収は地域の6割程度と低めですが、収穫されたコシヒカリは、「和の希」等のブランド名で、都市部の消費者や個人商店に1kg当たり平均900円で販売されています。
 宮原さんは、今後、子育てが落ち着いたら、集落内の農地を引き受けて、経営規模の拡大を目指したいとしています。


(若い世代を中心に高まりを見せる「田園回帰」の意識)

近年、若い世代を中心に「田園回帰」の意識が高まっています。総務省が実施した調査では、20歳代と30歳代の4割が農山漁村地域への移住について前向きな回答を行っています。
 特定非営利活動法人ふるさと回帰支援センターによれば、電話等で同センターに問合せを行った者、センターが開催する面談・セミナーへ参加した者等の移住相談者の延べ数は、平成29(2017)年において前年に比べ7千人(26%)増加の3万3千人となりました。年代別に見ると近年は40歳代以下が過半を占める状況が続いており、居住・就労・生活支援等についての総合的なワンストップポータルサイト「全国移住ナビ」の開設等があった平成27(2015)年以降は40歳代以下の割合が7割に高まっています。
 総務省が平成30(2018)年3月に公表した都市部から過疎区域への移動に関する分析 では、平成12(2000)年から平成22(2010)年にかけて都市部からの移住者が増えた過疎区域は108区域であったのに対し、平成22(2010)年から平成27(2015)年にかけては397区域と4倍弱にまで増加したことが明らかになりました。移住者の年齢は20歳代と30歳代が多く、若者の間で地方への移住の動きが進んでいることが分かります。
 また、一般社団法人持続可能な地域社会総合研究所が平成29(2017)年8月に公表した、全国の過疎区域に指定された797市町村における人口動態分析によれば、平成22(2010)年から平成27(2015)年にかけて、327市町村で30歳代女性が流入超過により増加し、93市町村で人口の実質社会増加が進みました。これら増加がみられた市町村には島しょ部のものも多く含まれ、田園回帰の流れが離島にまで及んでいることがうかがえます。

事例 集落に移住した若者によるUターンのきっかけづくり(高知県)

 愛知県名古屋市出身の田畑勇太さんは、高知大学在学中のゼミ活動で高知県大豊町の怒田集落に通う中で、高齢化が進む同集落で自分ができることに取り組んでみたいとして、平成25(2013)年3 月に24 歳で妻とともに同集落に移住しました。
 同集落は住民約70人のうち60歳代以上が9割強を占め、地域の行事が途絶え住民同士のつながりも希薄になっていました。高齢の住民がかつての盆踊りを懐かしそうに話す姿に心を打たれた田畑さんは、平成27(2015)年に約50年ぶりに盆踊りを再開させ、平成29(2017)年の盆踊りには集落の住民の3倍に相当する約200人が参加したと言います。
 田畑さんは、地域活動を継続するため、平成29(2017)年2月に地域住民の参加を得てNPO法人ぬたを守る会を設立しました。集落の住民は出身者がUターンで戻ってくることを強く望んでおり、同法人がそのきっかけを作ることで持続可能な集落を目指したいと田畑さんは考えています。


(農業分野行政職員の能力向上を目指す、地方創生カレッジや地域農政未来塾)
 地方創生の実現に向けては、それぞれの地方公共団体が策定した地方版総合戦略に基づき具体的な事業を推進していく段階にありますが、地方公共団体には全体を俯瞰する総合プロデューサーや専門的知見を持つ分野別プロデューサーの役割を担う人材が不足している状況にあります。
このため、政府は、全国の地方公共団体職員が、地域にいながら地方創生に必要かつ実践的な知識を習得できるよう、eラーニング形式にて学習コンテンツを提供する「地方創生カレッジ」を平成28(2016)年12月に開講しました。100を超える講座の中には、「地域農業の再生・創生」、「農山村の地域づくり」といった農業分野のテーマも設定されています。
 また、全国町村会独自の取組として、地域の実情に合った農業政策の展開に向け、自ら課題に気付き、提案し、行動できる能力を兼ね備えた町村職員の養成を目指す「地域農政未来塾」が平成28(2016)年度に開講されました。2年間で受講した塾生40人の多くは、それぞれの町村役場で農業政策の主要部門に配属されており、今後、地域農政の未来を担うリーダーとして活躍が期待されます。
また、市町村においては、事務事業の見直しや組織の合理化等により職員数が減少し、特に農林水産関係で減少の程度は大きくなっており、将来に向けて地方農政の推進体制を確保していくことが必要となっています。

事例 第1期塾生が、新たな農産物の集荷システムを構築(京都府)

 京都府与謝野町役場に勤務する井上公章さんは、平成28(2016)年度に、全国町村会が開講した「地域農政未来塾」に第1期19人の塾生の1人として参加しました。
 京都府北部の中山間地域に位置する同町では農業者が生産に集中できる環境の構築を目指しており、井上さんは同町農林課で農業者の出荷作業の負担軽減に資する農産物の集荷システムの担当をしています。井上さんが携わり平成29(2017)年度末に完成した新たなシステムは、農業者の庭先集荷の申込み情報を基に人工知能が作成したその日の効率的な集荷ルートを集荷業者に提示するものであり、将来的にはビッグ データを活用して農業者の収入向上につながるようシステムを発展させていきたいとのことです。
井上さんは、未来塾で身に付けた新たな視点で事業の構築や運営に取り組む柔軟性を今後の仕事に活かしていきたいと語っています。


第2節 中山間地域の農業の活性化
中山間地域は、不利な営農条件下にありますが、地域資源を活かすことで地域ならではの収益力のある農業を実現できる可能性を有しています。以下では、中山間地域における農業の現状、各地に広がる収益力のある農業の事例、中山間地域の取組を後押しする中山間地農業ルネッサンス事業や中山間地域所得向上支援対策について記述します。

(地域資源を「宝」として活用することで、収益力のある農業を実現できる可能性)
 中山間地域とは山間地及びその周辺の地域を指す概念であり、総土地面積の7割を占め、人口の1割が居住しています。中山間地域における農地面積と農業産出額は、ともに全国の4割を占めています。
  中山間地域で営まれる農業は、食料生産と多面的機能の維持・発揮の両面で重要な役割を担っていますが、傾斜地を多く抱え、ほ場の大区画化や大型農業機械の導入、農地の集積・集約化が容易ではなく、平地に比べ営農条件面において不利な状況にあります。また、野生鳥獣の生息地となる山林と農地が隣接することから平地に比べて農作物の鳥獣被害を受けやすく、過疎や高齢化の進行による担い手不足もあいまって、荒廃農地が発生しやすい環境にあります。
 一方で、中山間地域は、地理的条件、気候、都市からの距離等が大きく異なり、栽培されている作物等を始めとする営農の姿に多様性があります。加えて、中山間地域では、インバウンドや都市住民を惹き付ける田園風景や古民家等が保存・継承されるとともに、清らかな水や冷涼な気候の下で良食味の米や伝統野菜等が栽培され、また、鳥獣を捕獲・処理することでジビエという資源も得られます。中山間地域は、バラエティに富んだ地域資源を「宝」としてそれぞれの地域が活用することにより、経営規模の拡大だけに頼らない収益力のある農業を実現できる可能性を秘めています。
 また、山村振興法や過疎地域自立促進特別措置法等、地域振興立法に位置付けられる地域に中山間地域の多くが位置しています。このような条件不利地域についても、それぞれの地域の状況に合わせて特色ある地域資源を活かせるような支援をしていく必要があります。例えば、より地理的条件が厳しい山村においては、薪炭・山菜等の加工・販売、観光資源としての森林空間の活用等を通じて、地域の収益力を向上できる可能性を秘めています。

(各地の優良事例の発信と取組への支援を通じた横展開が重要)
 近年、中山間地域において、生産基盤や施設整備を契機に、地域の特色に合った作物の導入・拡大やブランド化等を図る取組が進められています。また、豊かな自然、伝統的な農法、多様な生物との共存等を付加価値とする特別な農産物を販売したり、旅行者の訪問・滞在につながる魅力ある体験や宿泊・食事サービスを提供する取組も見られます。
 例えば、地域を広域的にカバーする集落営農の法人化や中山間地域等直接支払の集落協定等の一本化に取り組むとともに、農産物の加工直売、都市との交流に取り組む広島県東広島市の小田集落や、災害ボランティアの受け入れを契機とした都市との交流やブランド米の直販等を移住・定住に結びつけている新潟県十日町市の池谷・入山集落のように、地域の様々な状況に応じた取組が行われています。
 それぞれの地域の「宝」を活用して、中山間地域の活性化を図るためには、様々な事業を活用した各地の優良事例を発掘・分析し、これらを分かりやすく発信するとともに、地域のチャレンジを支援して横展開を図っていくことが重要です。


事例 集落の体制を整備し、都市住民との交流や6次産業化を展開(福島県)

福島県猪苗代町の見祢集落では、米やそば等の農作業受託組織を法人化し、農事組合法人結乃村農楽団として体制を整備して、都市住民との交流活動や農家レストランの運営といった6次産業化を展開し、地域における所得の向上を実現しています。
 都市住民との交流活動では、東京都や神奈川県の自治会組織等との相互交流や水田のオーナー制度が実施され、田植、稲刈り、アスパラガスの収穫、そば打ち等の体験に多くの都市住民が同集落を訪れており、平成29(2017)年度の体験参加者数は延べ320人となりました。
農家レストランでは、常時2人が雇用され、地元食材を使った郷土料理等の提供のほか、そばの直売も行われています。 結乃村農楽団が生産に関わる猪苗代町のブランド米「いなわしろ天のつぶ」は、国内で1kg当たり600円程度と高値で販売されているほか、地元の農業協同組合の協力を得てドバイやカタール等の中東や香港向けに輸出も行われています。

(チャレンジを支援する中山間地農業ルネッサンス事業と中山間地域所得向上支援対策)   

 農林水産省では、中山間地域を含む地域振興立法の指定を受けた地域に対しては、中山間地域等直接支払による超急傾斜農地への加算を含めた支援により、営農条件の不利の補正を行っていますが、収益力のある農業の実現に向けては、地方公共団体による地域の将来ビジョンづくりとともに、女性や高齢者を含む意欲ある農業者による従来の方法を超えた新たな取組へのチャレンジが重要となっています。
 このため、平成29(2017)年度から、中山間地農業ルネッサンス事業により、意欲ある農業者の新たな取組に対し、各種事業での優先枠の設定や面積要件の緩和等の優遇措置により、総合的な支援を行っています。青森県の津軽半島では、たまねぎの導入・拡大により収益力の向上を目指すなど、同事業を活用した取組が各地に広がっています。
 また、平成29(2017)年度補正予算では、中山間地農業ルネッサンス事業の計画策定 地域を対象に、マーケティングの専門家等の参画を得て所得向上計画を策定し、水田の畑地化等の基盤整備や、生産・販売のための施設整備等を総合的に支援する中山間地域所得向上支援対策が措置されました。同対策により、約200地区で所得向上計画が策定され、農産物の品質や付加価値の向上に向けた基盤整備や施設整備等が実施されています。

第3節 農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮
 農村は、農業の持続的な発展の基盤であり、農業の持つ多面的機能の発揮の場となっています。以下では、農業・農村の有する多面的機能を維持・発揮できるよう講じている施策について記述します。

(農業・農村の有する多面的機能の効果は、国民全体が享受)
 農業・農村は、食料を供給する機能だけでなく、農業生産活動を通じ、国土の保全や水源の涵養、生物多様性の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等、様々な機能を有しており、このような多面的機能の効果は、農村地域の住民だけでなく国民全体が享受しています。歴史や伝統ある棚田・疎水等については、地域の協働力を育みながら、美しい農村景観を形成しており、地域資源として保全・復元し、次世代に継承していくことが重要です。
 また、農業、林業、水産業は、農山漁村地域において、それぞれの基盤である農地、森林、海域の間で相互に関係を持ちながら、水、大気、物質の循環等に貢献しつつ、多面的機能を発揮しています。
 平成26(2014)年度からは、これら農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮のために行われる地域の共同活動や農業生産活動等への支援を目的とし、日本型直接支払制度が導入され、平成27(2015)年度からは、「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」に基づく制度として、支援が行われています。
 国、都道府県、市町村が相互に連携を図りながら、多面的機能を将来にわたって維持・発揮できるよう、各種施策を通じて、農業・農村の持続的な発展に努めていくこととしています。

(多面的機能支払では、中間評価において 効果の発現と地方裁量の有効活用を確認)
 多面的機能支払は、多面的機能の維持・発揮を目的として平成19(2007)年度に農地・水・環境保全向上対策として始まり、現在は日本型直接支払制度の一つとして実施されています。
 平成29(2017)年度における多面的機能支払の取組の見込みは、農地維持支払については、活動組織数が2万8千、取組面積が227万ha(1万5千ha増加)、資源向上支払については、「地域資源の質的向上を図る共同活動」で、活動組織数が2万2千、取組面積が200万ha(5千ha増加)、「施設の長寿命化のための活動」で、活動組織数が1万2千、取組面積が69万ha(1万4千ha増加)となり、いずれの支払も前年度に比べ取組面積が拡大しています。
 農林水産省では、多面的機能支払の効果や事業の仕組みを検証するため、中間評価を行い、平成29(2017)年8月に公表しました。中間評価の中で示された活動組織に対するアンケート調査の結果によれば、多面的機能支払は、「景観形成のための植栽面積の増加、雑草繁茂や不法投棄の減少等」に効果が出ていると回答した活動組織 が85%に上るなど高い評価を得ています。また、水路やため池における転落防止のための安全施設の補修等、地方裁量で活動を追加できる仕組みが有効に活用されていることが明らかになりました。一 方で、活動組織の代表の後継者の不在、書類作成等の事務の負担といった課題が全国的に見られることも明らかになりました。
 このため、農林水産省では、後継者の確保や事務負担の軽減に向けて、既存の活動組織による近隣の農用地の取り込みや活動組織の合併等による広域的な体制づくりを進めています。

事例 多面的機能支払の事務負担軽減等に貢献する広域組織(新潟県)

 新潟県見附市では、平成19(2007)年度に始まった農地・水・環境保全向上対策に取り組む組織数が増加する中、各組織の事務の一元化や活動のルールの共通化を図るため、平成24(2012)年度に同市が主導して広域組織「見附市農地・水・環境保全管理協定運営委員会」を設立しました。平成26(2014)年度に多面的機能支払が創設されたのを機に、同保全組織は市内の全ての組織が参加する一市一組織の広域組織「見附市広域協定運営委員会」へと改称されました。
 同広域組織の活動は、各組織における事務作業の負担軽減、資材等の共同発注による経費の節減、大型機械の共同利用等による取組の効率化に貢献しており、事務負担の軽減等を目指す地方公共団体の視察を多数受け入れるなど、全国的にもモデル的な広域組織の一つとして注目されています。

(中山間地域等直接支払いでは、前期対策に比べ、1協定当たり平均交付面積は拡大)
 中山間地域等直接支払は、不利な営農条件下での農業生産活動の継続を目的として平成12(2000)年度に始まり、現在は日本型直接支払制度の一つとして実施されています。
 平成29(2017)年度における中山間地域等直接支払の交付面積の見込みは、前年度に比べ2千ha(0.3%)増加の66万3千haとなりました。中山間地域等直接支払では、5年間以上継続して農業生産活動等を行うことを要件としていることから、第4期対策への移行に際して、協定集落における農業者の高齢化等による協定者数の減少や、新協定の締結に向けた話合いに時間を要し、協定の締結に至らなかったこと等により、取組面積は大きく減少しました。しかし、集落における十分な話合いや市町村による指導・助言等により、その後徐々に回復してきています。また、高齢化の進行等により担い手が減少する中、担い手の確保に向けた協定の広域化に対する支援を強化しており、対策1年目から3年目までの3年間における1協定当たり平均交付面積は、第3期対策が24.6haであるのに対し、第4期対策は25.6haと拡大しています。さらに、営農の条件が特に厳しい超急傾斜農地についても、加算措置を講ずるなど支援を強化しています。
 農林水産省では、第4期対策の中間年評価の一環として、中山間地域等直接支払に取り組む集落協定へのアンケート調査を実施しました。これによれば、回答した全国2万5,266 協定のうち、93.2%に相当する2万3,552協定が2020年度からの次期対策に取り組めると回答しました。このうち、協定農用地を拡大又は維持して取り組めると回答した1万 2,766協定に今後の取組を尋ねたところ、10年後も協定農用地を拡大又は維持したまま取組が継続されていると回答したものは56.6%に相当する7,227協定となり、広域で取り組む協定や規模が大きい協定でこの割合は高くなっています。その理由を尋ねたところ、「担い手への農地集積・集約面積、作業委託面積が増加した」、「協定参加者の世代交代(若返り)が進んだ、または気運が高まった」等が挙げられています。
  一方、10年後の協定農用地について「一部、荒廃しているかもしれない」と回答した 43.4%に相当する5,539協定にその理由を尋ねたところ、「農業の担い手が不在、または不足」、「高齢化・後継者不足によるリーダー等の不在」、「高齢化や人口減少により、農道・水路等の管理が困難」等が挙げられ、協定農用地の維持に向けて担い手の確保や集落間の連携等が重要となっています。

(環境保全型農業直接支払では、前年度に比べ、実施面積が拡大)
 環境保全型農業直接支払は、多面的機能支払と同様に平成19(2007)年度に農地・水・環境保全向上対策として始まり、現在は日本型直接支払制度の一つとして実施されて います。
 農業者団体等が交付金を受けるには、化学肥料・化学合成農薬の使用を慣行レベルから 原則5割以上低減させるとともに、地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農活動を実施する必要があります。具体的には、全国共通の取組である「カバークロップ(緑肥)の作付け」、「堆肥の施用」、「有機農業」のほか、地域の環境や農業の実態等を勘案した上で、地域を限定して取り組むことができる「地域特認取組」があります。
 平成29(2017)年度における環境保全型農業直接支払の実施面積の見込みは、前年度に比べ5,213ha(6.2%)増加の8万9,778haとなりました。取組別面積の見込みは、地域特認取組が3万6,700haと全体の40.9%を占めており、堆肥の施用、カバークロップの作付け、有機農業と続いています。

第4節 鳥獣被害とジビエ
 野生鳥獣をめぐっては、生息数の増加等により深刻な農作物被害が発生していますが、 一方で、若手や女性の狩猟者の増加、ジビエを食材として利用する動きが広がっています。以下では、鳥獣被害の現状、野生鳥獣の捕獲やジビエの利用拡大に向けた取組等について記述します。

(1) 鳥獣被害の現状と対策
(平成28年度の農作物被害額172億円は、平成11年度の調査開始以来最低の水準)
平成28(2016)年度の野生鳥獣による農作物被害額は、172億円と4年連続で減少しており、平成11(1999)年度の調査開始以来、最低の水準となりました。しかしながら、鳥獣被害は営農意欲の減退や耕作放棄の要因ともなっており、数字に現れる以上に深刻な影響を及ぼしています。
近年の少雪・暖冬や荒廃農地の発生による野生鳥獣の生息域拡大、狩猟者の高齢化に起因する捕獲圧の低下等は、野生鳥獣の生息頭羽数の増加を招き、被害を拡大させる可能性があります。

(狩猟免許所持者は、近年、若手や女性が増加)
 野生鳥獣を捕獲するためには狩猟免許の取得が必要であり、この狩猟免許には第1種銃猟、第2種銃猟、わな猟、網猟の4種類があります。わな猟免許の所持者は止めさしを行うため銃猟免許を併せて所持する場合もあります。狩猟免許の延べ所持者数は、近年、横ばいとなっており、年齢階層別に見ると49歳以下の若手が増加しています。
 また、女性の狩猟免許所持者数も増加しており、平成27(2015)年度の4,181人を都道府県別に見ると、北海道が520人と最も多く、次いで東京都292人、長野県240人、神奈川県193人、兵庫県185人と続き、地方だけでなく首都圏においても女性の狩猟に対する関心の高まりがうかがえます。
 近年、各地において狩猟現場の見学、狩猟の疑似体験、若手狩猟免許所持者とのフリートーキング等のイベントが開催されるとともに、狩猟を題材にしたコミックも出版されており、狩猟が身近に感じられるようになることで、狩猟免許を取得する者の増加が期待されます。

事例 狩猟に興味を持つ県内外の女性がつながる「狩女の会」(石川県)
 石川県白山市の長田富士子さんは、夫が捕獲した鳥獣のジビエを使い、自身が経営するカフェでの料理の提供や、県内のイベントでのジビエサンドの販売のほか、鳥獣の革を使った商品づくりを行っていました。
 狩猟に興味を持つようになった長田さんは、平成26(2014)年の狩猟免許の取得を機に、男性中心の狩猟社会で、仕事や家事をしながら狩猟活動を行う女性が互いに悩みを共有し励まし合えるつながりを作ることを目的に、平成28(2016) 年3月、同時期に免許を取得した県内の女性仲間4人と「狩女の会」を結成しました。
 狩女の会がマスコミ等で取り上げられると狩猟に興味を持つ県外の女性を含め会への参加希望が多数寄せられ、30人以上のメンバーを抱えるようになった狩女の会では、現在、SNS上での意見交換や情報発信等を中心に活動を展開しています。

(鳥獣被害の防止に向け、鳥獣被害対策実施隊が1,140市町村で設置)
 野生鳥獣による農作物被害の防止に向けて、鳥獣被害防止計画の策定や鳥獣被害対策実施隊の設置を進める市町村が増加しており、平成29(2017)年4月末時点で計画策定市町村数は1,458、実施隊設置市町村数は1,140となりました。実施隊設置市町村数については2020年度に1,200まで増加させる目標を掲げており、未設置市町村に対し、隊員の狩猟税の免除措置等、実施隊設置のメリットの周知等を図っていくこととしています。
 平成27(2015)年5月に施行された改正後の鳥獣保護法により、鳥獣の著しい増加等で劣化した植生を回復し、自然環境とバランスの取れた個体管理等を行うため、都道府県が事業者に鳥獣捕獲等を委託する事業が創設されました。平成29(2017)年度においては38道府県で同事業による鳥獣の捕獲等が行われました。
 シカとイノシシを合わせた生息頭数については、平成23(2011)年度を基準に 2023年度までに半減させる目標が掲げられています。近年、シカとイノシシの捕獲頭数は増加しており、半減目標の実現に向けて、市町村や都道府県等による捕獲が引き続き進められることとなります。
 また、IoT、センサー、カメラ等を活用した効率的な有害鳥獣の捕獲方法の実用化が進められているほか、牛の放牧による緩衝地帯の設置、集落が一体となった農作物残さの除去、集落の全住民によるサルの追い払い等、地域の事情に応じた様々な被害防止活動が展開されています。
 鳥獣による被害は、農林水産業にとどまらず、生活環境、生態系など広い範囲に及ぶため、捕獲の担い手の負担軽減に向けて、関係省庁が連携して有効な対策を実施していくこととしています。

事例 カメラとICTを活用したイノシシの捕獲システム(福岡県)
 福岡県直方市では、平成27(2015)年度にカメラとICT を活用したイノシシの捕獲システムを導入しました。イノシシは成獣を捕獲することで個体数を効率的に減らすことができます。同システムでは箱わな上部に取り付けられたカメラがわな内に進入したイノシシを確認し、画像解析から成獣と判別した場合に扉を閉じます。通常のわな猟では錯誤捕獲の防止等のため、わな設置者には頻繁にわなの見回り監視が求められますが、同システムでは作動したわなの位置や日時の情報がクラウド上で確認できることから見回り監視の負担は大きく軽減されています。平成28(2016)年1月に30機のわなを設置して以降、平成29(2017)年度末までに131頭の成獣のイノシシが捕獲されました。
 また、カメラが捉えたわな周辺に出現したイノシシの頭数や時刻の情報は随時クラウドサーバーに蓄積され、イノシシの生息管理にも役立てられています。


(2)ジビエの利用拡大
(食肉処理施設で解体され、食用、ペットフード用等に仕向けられたジビエは1,283t)
 捕獲されたシカやイノシシについては、これまでその多くが埋設や焼却場等での焼却により処理されていましたが、近年、捕獲鳥獣を地域資源に位置付けジビエとして利用する動きが広がっています。
 平成29(2017)年度に実施したジビエ利用量等の調査によれば、全国563の食肉処理施設で平成28(2016)年度に解体された野生鳥獣のうち、食肉利用されたシカ肉は665t、イノシシ肉は343tとなり、ペットフード等への利用も含めたジビエ利用量は1,283tとなりました。
 また、食肉処理施設で卸売・小売された食肉の販売先は、「卸売業者」の割合が最も高く、以下、シカ肉は「外食産業、宿泊施設」が、イノシシ肉は「消費者への直接販売」や「外食産業、宿泊施設」が続いています。
 なお、平成27(2015)年度のシカとイノシシの捕獲頭数は合わせて117万頭であるのに対し、食肉処理施設で解体されジビエとして利用された頭数は、シカとイノシシを合わせて約8万頭にとどまっており、今後、食肉処理施設への持込み頭数の増加によるジビエの利用拡大が期待されます。

(モデル地区の整備等により、ジビエ利用量を平成31年度に倍増)
 捕獲された鳥獣を地域資源として有効利用する観点から、捕獲から搬送・処理加工がしっかりとつながり、ビジネスとして持続できる安全で良質なジビエの提供を実現することが重要となっています。このため、ジビエ利用量を平成31(2019)年度に倍増させる目標が掲げられ、目標達成に向けて平成29(2017)年度にジビエ利用モデル地区を全国から17地区選定しました。また、外食や小売等を始め、農泊、観光や学校給食、さらには、ペットフード等、様々な分野において、ジビエ利用量が増大するよう、関係省庁が一体となって取り組むこととしています。
 さらに、農林水産省では、ジビエ利用に取り組む地域からの各種相談に対し、専門家の協力を得てこれに応じるワンストップ窓口を平成29(2017)年9月に設置しました。平成29(2017)年度末時点の相談件数は47件となっており、各地域の課題解決が、ジビエ利用量の増大につながることが期待されます。

(消費者にとってジビエを身近な食材に)
 ジビエ利用量の増大に向けては、消費者にとってジビエを身近な食材としていくことが重要です。 農林水産省では、平成29(2017)年度において、 一般家庭等にジビエ料理を普及させるため、家庭料理や給食向けのジビエ料理レシピを募集する「ジビエ料理コンテスト」を開催し、入賞した50レシピを公表したほか、ジビエを安全においしく食べてもらう方法を料理人に普及するため、調理師専門学校の講師による講演や調理実習等を行う「ジビエ料理セミナー」を全国各地で開催しました。
 地元で捕獲されたシカやイノシシのジビエを学校給食で利用する動きもあります。平成 29(2017)年10月末時点で、ジビエを学校給食で利用している小中学校数は320校となりました。
 また、ジビエ料理を農泊におけるコンテンツとして利用する動きも各地に見られます。平成29(2017)年の第4回「ディスカバー農山漁村の宝」の選定地区となった京都府南丹市の美山町自然文化村では、宿泊客やツアーの参加者等にジビエ料理を振る舞い、好評を得ています。

事例 
 調理師専門学校で全国初のジビエのカリキュラム化が実現(熊本県)
 熊本県では、有害駆除等で捕獲されたシカやイノシシを地域資源と捉え、「くまもとジビエ」として活用されるよう、 平成24(2012)年度に、処理加工業者、飲食店業者、市町村等が構成員となって「くまもとジビエ研究会」が設立され ました。同研究会では、処理加工業者や飲食店業者向けの研修、県内の飲食店やホテルと連携したジビエ料理フェアの開催等、ジビエのブランド化とジビエ料理の定着につながる活動が継続的に行われています。
 また、平成27(2015)年度には、調理師にとってジビエが身近な食材となるよう、同研究会が協力を行うことで、熊本市の調理師専門学校で全国初となるジビエのカリキュラム化が実現しました。ジビエの授業では、シカの解体見学、精肉加工体験、一流シェフによるジビエ料理の実演等が行われ、同校卒業生の活躍によるジビエ料理の一層の普及が期待されます。

第5節 地域資源の積極的な活用
 農村に存在する地域資源を活用することは、再生可能エネルギーの供給拡大に資するだけでなく、地域に新たな収益や雇用をもたらします。以下では、各種発電施設の整備、農山漁村再生可能エネルギー法に基づく取組、バイオマス産業都市の選定について記述します。

(農業農村整備事業等により整備が進む各種発電施設)
 長期エネルギー需給見通しでは、2030年度に総発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合を22%から24%程度にまで高めることが示されており、平成28(2016)年度は前年度と比べ0.8ポイント上昇の15.3%となっています。農村には水、バイオマス等の地域資源が豊富に存在しており、これらを活用し再生可能エネルギーの割合を高めるとともに、地域の活性化につなげていくことが重要です。再生可能エネルギーの導入は、電力会社が買電に要した費用の一部を電気の利用者からの賦課金で賄う固定価格買取制度によって支えられており、国民負担を抑制しながら再生可能エネルギーの最大限の導入に努めていくこととされています。
 農業用ダムや水路を活用した小水力発電施設、農業水利施設の敷地等を活用した太陽光発電施設については、農業農村整備事業等により国、地方公共団体、土地改良区が実施主体となって整備を進めており、小水力発電施設は、平成29(2017)年度末時点で整備済み84施設、計画・建設中78施設、太陽光発電施設は、平成29(2017)年度末時点で整備済み106施設となっています。これら発電により得られた電気を自らの農業水利施設で利用することで、施設の稼働に要する電気代が節約でき、農業者の負担軽減につながります。
 また、支柱により農地の上部空間にソー ラーパネルを設置し、農作物とパネルで太陽光を分け合うことで農業生産と発電を同時に実現する営農型太陽光発電という方式があります。農業者は農産物の販売収入に加え電力会社への売電収入も得られることから、近年、営農型太陽光発電の取組面積とその設備を設置するために必要な農地転用の許可件数は増加しています。

事例 ブルーベリーの品質と収量を維持しつつ、売電収入を獲得(千葉県)
 千葉県いすみ市で果実の観光農園と農家民宿の経営を行う藤江信一郎さんは、平成27(2015)年3月から、10aのブルーベリー園地で営農型太陽光発電に取り組んでいます。園地上部の太陽光パネルは、設置費用に約1,500万円を要しましたが、年間約200万円の売電収入を生み出しています。太陽光パネルの下で栽培されたブルーベリーは、パネルの設置前のものと比べ、糖度、大きさ、色付き、収量とも遜色なく、また、園地内に日陰ができることで夏場の収穫作業が楽になる効果もみられました。
 発電施設の設置・運営や電気の販売は藤江さんが代表を務めるいすみ自然エネルギー株式会社で実施されており、近隣の農業者から同社に対し営農型太陽光発電についての相談が寄せられているとのことです。
 藤江さんは、自身が新たな農業の実践モデルの一つとなることで、若者が安定した収入を得ながら農業で生計が立つ姿を作ることに役立ちたいと考えています。


(農山漁村再生可能エネルギー法に基づく基本計画の作成市町村は着実に増加)
  農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進による農山漁村の活性化を図るため、平成25 (2013)年に農山漁村再生可能エネルギー法が制定されました。同法に基づく基本計画を作成し再生可能エネルギー発電の導入に取り組む市町村は着実に増加しており、平成29(2017)年12月末時点で、前年に比べ15市町村増加の44市町村となりました。
 このうち宮城県七ケ宿町の基本計画では、発電事業者が事業開始後20年の間、太陽光発電の売電収入の約4%を同町の基金に繰り入れることとされており、20年間の想定繰入額は4億円となっています。同町は基金を財源に畜産や施設園芸の振興や担い手の育成等の取組を行うとしています。

(バイオマス産業都市は、11市町村が新たに選定され79市町村に)
 バイオマス産業都市(以下「産業都市」という。)とは、経済性が確保された一貫システムを構築し、地域の特色を活かしバイオマス産業を軸とした環境に優しく災害に強いまち・むらづくりを目指す地域です。農林水産省を含む関係7府省では、平成25(2013)年度から、市町村等の地域による産業都市構想の募集、産業都市の選定・支援を行っています。平成29(2017)年度には新たに11市町村が選定され、産業都市数は79市町村となりました。
 平成25(2013)年度に産業都市に選定された宮城県南三陸町では、産業都市構想に 基づき、町内で発生する生ごみやし尿などを原料にメタン発酵処理を行い、発生したバイオガスを用いて電気・熱を生成して処理施設内で利用するとともに、余剰電気を売電しています。また、メタン発酵により発生する消化液を、液肥として町内の農地で利用することを通じて、地域資源の循環利用に取り組んでいます。

第7節 農業と多様な分野との連携

 農業と多様な分野との連携は、農業側において収入の向上や労働力の確保につながるだけでなく、連携相手の分野においても一定の目的を達することができ、双方にとって有益な取組です。以下では、農業と教育分野との連携、農業と福祉分野との連携について記述します。

(子ども農山漁村交流プロジェクトによる子供の受入れは185地域で実施)
 農業と多様な分野との連携は、農業側において収入の向上や労働力の確保につながるだけでなく、連携相手の分野においても一定の目的を達することができ、双方にとって有益な取組です。以下では、農業と教育分野との連携、農業と福祉分野との連携について記述します。
(子ども農山漁村交流プロジェクトによる子供の受入れは185地域で実施)
 農村地域において子供が農作業等を体験したり人々と交流することは、子供たちにとっては、食の大切さや農業・農村への理解を深めるとともに、豊かな人間性や社会性を育むなどの教育効果が期待され、農業・農村側にとっては、女性や高齢者等の活躍、地域コミュニティの活性化、また、農家民宿等における収入源の一つにもなっています。
 農林水産省、文部科学省、総務省では、平成20(2008)年度から「子ども農山漁村交流プロジェクト」による農山漁村での子供の宿泊体験活動を推進しています。同プロジェクトにより、これまでに子供の受入れを行ったモデル地域は平成28(2016)年度末時点で185地域となりました。
 一方で、このような教育旅行の受入れについては、受入農家の高齢化のほか、子供の訪問時期が限られるなどの理由から収益性が低く新たな施設整備や人材の雇用等が難しいという課題があります。そこで、教育旅行のみならず、持続的にサービスを提供できる体制の整備をしつつ、訪日外国人を含む観光客も対象に、ビジネスとして実施する農泊にも取り組む地域が増えています。
 また、農業と教育分野との連携は、このほか、学校行事としての林間学校、都市部と農村部の姉妹都市・友好都市の提携が契機となり行われることもあります。

(近年、ハローワークを通じた障害者の農林漁業分野への就職件数は年間3千件弱)
 
農作業に障害者や生活困窮者、高齢者が携わることは、働く側にとっては就業の場の確保、本格就業に向けた訓練、生きがいの創出、健康の増進に役立ち、農業・農村側にとっては労働力の確保、地域の活性化等にも貢献します。
 ハローワークを通じた障害者の農林漁業分野への年間就職件数は、平成20(2008)年度から平成25(2013)年度までの5年間で約4倍に増加し、その後、3千件弱の水準で推移しています。近年では、障害者就労施設が荒廃農地を借り受けて福祉農園を営む取組や、農業者が障害者就労施設等に農作業を委託したり障害者を雇用する取組が進んでいます。
 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会における食材の調達基準には、障害者が主体的に携わって生産された農畜産物が推奨されることが示されました。調達基準の解説では、同大会において推奨される、障害者が主体的に携わって生産された農畜産物であることを都道府県が確認すると記載されました。
 農業に従事する障害者の作業知識等の見える化や働く意識醸成のため、京都府は、平成29(2017)年度に、農業に興味を持つ障害者を対象に、農業についての知識や技能等を評価し認証する制度を創設しました。平成30(2018)年度からの本格認証に向け、平成29(2017)年度には一部講座の受講によるプレ認証が行われており、同認証制度を活用して障害者と農作業のマッチングが行われることで、働く意欲の向上や作業工賃の改善等の効果が期待されます。
 また、平成29(2017)年3月に、民間が中心となった全国組織として「全国農福連携 推進協議会」が、同年7月に都道府県間の連携組織である「農福連携全国都道府県ネットワーク」が設立されるなど、全国的な連携が進みつつあります。

事例 安定した販路により、全国平均を大きく超える賃金を実現(北海道)
 北海道芽室町の株式会社九神ファームめむろは、就労に必要な知識や能力の向上のための訓練を行う就労継続支援A型事業所として、平成25(2013)年4月に設立されました。
 設立当初9人だった同社で働く障害者は、平成29(2017) 年7月時点で19人となり、3haの畑でのじゃがいも栽培等に加え、加工施設での皮むき・カット等の1次加工も行うことで、通年での作業量が確保されています。
 同社で1次加工された加工品は、同社の親会社である愛媛県の総菜製造販売会社が全量を買い取ることとなっており、安定した販路を持つ同社では、近年の就労継続支援A型事業所の全国月額平均賃金が6万円台後半となる中で、平均11万5千円を実現しています。
 同社で働いていた障害者の1人は平成27(2015)年度に障害者手帳を返還し障害者をサポートする側の生活支援員として同社で働き、また、別の1人は平成28(2016)年度に地元の大手スーパーへ初の一般就労を果たしました。



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