「森林再生とバイオマスエネルギー利用促進
のための21世紀グリーンプラン」を提言
(社)経済同友会
 
   
  

 企業経営者で構成している(社)経済同友会は、去る2月17日、再生可能なエネルギー資源の宝庫である森林を再生させようと30年計画をまとめて提言した。この30年計画は、樹齢・樹種の違う複層林に転換する計画で、はじめの10年間に2兆5千億円〜3兆円の公的資金を導入して整備する。これにより、将来的に植林や下刈りのコストが現在の1/5に減少し、林業の採算性が大幅に上がる、としている。このように経済界が、森林の再生に向けて公的資金の導入を提言したことは、山村にとっても極めて意義あるものと考えられる。提言はつぎのとおりである。
 
【要 旨】
  
 持続可能な社会の構築は人類が直面する21世紀最大の課題であるが、なかでも人類の生存に不可欠である森林は、その象徴ともいえる存在である。ところが、わが国森林は人工林を中心に荒廃が進展しており、生物多様性の保全・水土保全等の森林本来の機能が大きく損なわれるとともに、再生可能資源である木材・バイオマスエネルギー利用が滞っている。
 人工林の荒廃は林業近代化の遅れ、戦後の行き過ぎた人工林化が主因である。森林の再生は可能であるが、そのためには、皆伐・再造林を繰り返す単層林中心の森林経営を抜本的に見直す必要がある。この方式では、森林の様々な機能を十分に引き出すことが出来ず、林業の採算性向上を図ることも不可能である。
 21世紀型森林経営への抜本的な改革としては、樹種・樹齢の異なる複層林の非皆伐(循環的)施業への移行が中心的課題となる。これには、相当長期に亘る綿密な計画とその着実な実行を要する。
 また、複層林施業を支えるためには、近代林業システムを確立する必要がある。わが国のように森林所有形態が小規模な場合、所有者に対する啓蒙や専門的アドヴアイスを通じて小規模所有をまとめ、合理的な森林整備を行なう担い手が不可欠である。本来なら森林組合がその機能を担うべきであるが、現実には森林組合はそうした役割を果たしていない。先ず森林組合を改革し、その業務を森林所有者に対するコンサルタントビジネスに特化させなければならない。それに加え、専門的な人材(フォレスター、林業技能者)の育成、林業研究機関、路網、森林データベースの整備など近代林業サポート体制を築き上げることが急務である。
 なお、急峻な地形や奥地など最終的に林業不適地とみられるところは、天然林に戻す。
 以上を踏まえ、「森林再生とバイオマスエネルギー利用促進のための21世紀グリーンプラン(30年計画)」を提案する。
 先ず第1段階(最初の10年)では、皆伐停止とした上で、公的資金で人工林の間伐を行なう。同時に森林組合の改革に着手し、それと並行して近代林業サポート体制を構築する。
 また間伐材をバイオマスエネルギー利用に振り向けるよう助成措置を導入する。第2段階(次の10年)では、補助金なしで全人工林の間伐を行なうとともに、複層林化へ向けた植え替え作業を開始する。第3段階(最後の10年)では、複層林への移行作業を本格化させる。
 また、森林資源のカスケード利用、バイオマスエネルギー利用についても、これを徹底的に推進する。
 本プランを実現するには、第1段階で約2.5〜3兆円、第2、第3段階でも相応の公的資金が必要となる。これを国家予算全体の中に正しく位置付けなければならない。そのためには、本プランは、わが国が持続可能な社会の実現へ向けて21世紀中に展開すべき基幹的プログラムの一つであること、本プランヘの支出は、社会的コストではなく、持続可能な社会という将来価値実現のための投資と認識さるべき性格のものであること、について、国民的理解を高める努力が大切である。
 本プランに国民の総意を結集することが出来れば、今世紀中に複層林化は完了し、わが国森林は持続可能な社会の象徴として輝き続けることとなろう。

 

【本 文】
 
はじめに〜持続可能な社会と森林
 
 持続可能な社会の構築は、人類が直面する21世紀最大の課題であるが、なかでも森林は、その象徴ともいえる存在である。森林は、木材やバイオマスエネルギーなどの再生可能、かつカーボンニュートラルな資源の宝庫であると同時に、生物多様性の保全、水土保全等の様々な機能を有しており、人類の生存にとって不可欠の存在だからである。
 ところが、現実にはわが国の森林は荒廃が進展しており、その機能が大きく損なわれ、資源の利用も滞っている。このままでは京都議定書によってわが国が認められた3.9%の森林吸収枠の活用も困難である。
 森林を適切に管理し、その機能を最大限引き出すことが出来るか否かに、持続可能な社会構築の成否がかかっているといっても過言ではない。こうした観点から、われわれは森林再生の問題を取り上げることとした。

1.森林問題の所在
  
(1)危機的状況にある人工林

 森林は、天然林(1500万ha)と人工林(1000万ha)とに大きく分けられるが、森林荒廃が深刻なのは人工林である。天然林は基本的には自然に委ねることが出来ることから、森林の状態は相対的に健全である。これに対し、人工林は適切に管理されないと荒廃し、木材資源が価値を失うのみならず、森林の様々な機能を引き出すことが出来なくなってしまう。事実、人工林の相当部分は間伐が不十分で下草が生えない状態であり、中にはモヤシのようなスギ、ヒノキが密生したまま放置された森林すら存在している。
 こうした森林は、台風や豪雨、雪などでたちまち崩壊してしまう不安定な状態にあり、森林本来の機能を発揮するには程遠い。また、皆伐後に放置された林地も全国至る所で見られ、水土保全機能が大きく損なわれる結果となっている。
人工林の荒廃は、林業の近代化が遅れていること、戦後の行き過ぎた植林政策により急峻な山地や山奥といった林業不適地までもが人工林化されたことが主因である。このような状況から、木材資源の利用は1800万立方メートル/年に過きず、森林バイオマスエネルギー利用も実質ゼロに止まっている。ところが、現在の森林蓄積を前提として潜在的な資源量を計算すれば4400万立方メートル/年(*1)の木材、1次エネルギーの1〜2%相当の森林バイオマスエネルギー利用が可能となる筈である。

(2)皆伐方式の破綻
 必要な改革を行なえば、森林の再生は今からでも可能である。その場合、戦後一貫して追求されて来た森林経営の基本方式、即ち、スギやヒノキなどの同一の針樹を植林し、35〜50年で皆伐・造林を繰り返す、単層林中心の施業を抜本的に見直す必要がある。
 その第1の理由は、皆伐方式では水土保全機能が損なわれること、単層林であるが故に生物多様性の保全に適さないことから、森林本来の機能が発揮されないことである。
 第2は、林業の採算性を飛躍的向上させることが不可能なことである。
 現在の木材価格の下では、売上から伐採・搬出等の経費を引くと、森林所有者の手元には利益が殆ど残らない。いわゆる立木価格ゼロである(表1-1)。
 
 皆伐林業コスト(1ha当たり)
 
 表-1-1 木材伐採の収支万円

売   上

m3当たり単価
1

伐採量(220m3)....a

220

伐採搬出等経費

m3当たり単価

1

伐採量(220m3)...b

220

林家手取り(立木価格)

a-b

0

 表-1-2 木材伐採の収支(経費半減に成功した場合)

伐採搬出等経費

m3当たり単価

0.5

伐採量(220m)....c

110

林家手取り(立木価格)

a-c

110

 表2 造林・育林コスト

植      栽

75

下 刈 り 7 回

100

除      伐

25

200

(出所)森林組合、林業研究家に対するヒヤリング、各種資料に基づき作成。

他方で、木を植えて育てるまで、皆伐方式では1ha当り200万円もかかる(表2)。しかも、その殆とが最初の10年間で発生する。つまり、わが国の人工林は潜在的には1ha当り200万円、全体で20兆円の赤字を抱えていることになる。これを50年伐期として単純計算すれば年間4000億円の赤字となるが、現在の皆伐方式では、こうした収支構造を大きく変えることは出来ない。
 伐採・搬出に関しては、機械と連携した路網の整備でコスト削減の余地はまだ存在する。ところが、皆伐後の造林・育林に関しては、大幅なコスト削減は不可能に近い。というのは、皆伐方式では、地拵え、苗木の植付けなどの再造林コストや、下草刈りといったコストは削減が困難であり、しかもそれが造林・育林コスト全体の8割以上を占めるからである(表2)。
 従って、仮に伐採コストの半減に成功したとしても、所有者の手取りは110万円にしかならず、造林・育林コストを半分程度カバーし得るのみである(表1-2)。
 なお、大規模所有であれば、皆伐方式でも毎年収穫することが可能であるが、わが国のように小規模所有では、植林から収穫まで数十年間収入が得られず、資金は持ち出しばかりとなる。このため、所有者の森林整備意欲は殊更殺がれている。


 
2.21世紀の森づくり
 
(1)複層林への移行
 森林の機能を引き出すとともに、林業の採算性を向上させ、21世紀の要請にふさわしい森づくりをするためには、単層林の皆伐再造林方式から訣別し、樹種・樹齢の異なる複層林の非皆伐(循環的)施業に移行することが必要である。オーストリアやスイスなど森林経営先進国では、こうした複層林施業の例が多く見られる。
 非皆伐・循環型の複層林は、単層林に比べ、以下の利点がある。

イ)

複層林は樹種・樹齢の異なる木々、とくに広葉樹を自然に混在させて行くことが可能であることに加え、皆伐をせず、適材の伐採と新規植樹を循環的に実行して行くことから、生物多様性の保全や水土保全に優れ、森林の機能をより大きく引き出すことが出来る。

ロ)

林業の採算性の大幅な向上を図ることも可能となる。複層林への移行を目的に皆伐を停止させれば、当面は間伐を繰り返すだけであり、造林や育林コストがかなり削減される。また、複層林へ移行した段階では、植林・下草刈りのコストが皆伐方式に比べ5分の1程度に軽減される。さらに、皆伐方式では植林・育林作業の大部分が最初の10年で発生するが、複層林方式ではこうした作業は平準化される。このため、計画的合理的作業が可能となる。

ハ)

複層林施業では、樹種・樹齢の異なる木の中から需要に最も適した木材を選択伐採することとなるので、市場の変化に柔軟に対応することが出来る。このため、林業経営上のリスクヘッジの面でも優れた方式である。
 ただ、単層林を複層林化するには、まず間伐を繰り返して、上層木が適度に成長し(その頃の樹齢は70年前後)、十分な林内照度が確保されるようになった段階で植え替えを進めることとなるので、相当長期間を要する。綿密な移行計画を樹立するとともに、それを着実に実施して行く体制を確立しなければならない。

(2)近代林業システムの確立
 わが国において、森林の機能を最大限引き出しつつ、効率的な木材生産を実現しようとすれば、それにマッチした近代林業システムを構築しなければならない。
 
その1)森林組合の改革
 わが国の森林所有形態は小規模であることに加え、所有林から遠く離れて居住する不在村所有者の増加などから、自ら森林整備を行ない得ない所有者が圧倒的に多い。このため、所有者に対する啓蒙や専門的アドヴアイスなどを通じて小規模所有をまとめ、合理的・効率的な施業を行なう森林整備の担い手が不可欠である。わが国ではそのための機関として森林組合が存在しているが、森林組合が実際に行なっている事業は、林業としては補助金の対象となっている造育林・間伐のみであり、このほか同じく補助金の支えを得て製材工場などの林産事業にかなり手を出している。森林所有者に対する専門サービスを提供している森林組合は少ない。
 しかも現在森林組合が営んでいる林業は、地域独占が認められている上、補助金に頼り切っていることから、極めて非効率であり、造育林や間伐などの事業単価が割高となっている。また、森林組合の林産事業も決して効率的とはいえないが、この分野では補助金の力で国産材を扱う民間の製材工場を圧迫している。
 従って、森林組合を以下の通り、抜本的に改革する必要がある。

イ)

森林組合は、地域森林管理の担い手として、森林コンサルタントビジネス(森林所有者に対する専門的アドヴアイス業務、森林整備事業の指示、路網の基本設計、森林データーべ一スの構築等)に特化する。

ロ)

間伐などの森林整備事業には、入札などの競争原理を導入するとともに、市場メカニズムが機能する林産事業は森林組合から切り離し、民間に委ねる。
 
その2)近代林業サポート体制の整備
 森林組合の森林管理機能が十分に発揮されるためには、以下の通り近代的なサポート体制を整備することが急務である。

イ)

林業研究機関が地域の事情に合った施業体系を研究し、その研究成果に基づき、森林組合に配属された森林管理の専門家(フォレスター)が地域森林管理計画を策定するとともに、森林所有者へのアドヴアイスを行なう。専門教育を受けた林業技能者がそれを現場で実践する。
 このため、森林総研や林業試験場などの林業研究機関の業務目的を複層林地業実現のための研究と明確に規程し、森林組合との連携体制を構築する。また、大学にフォレスター養成コースを設けると同時に、プロの林業技能者を養成するための専門学校を各地域に配置する。

ロ)

作業者や林業機械の効率的な投入・移動を保証するため路網を整備する。

ハ)

効率的な作業・伐採計画を立てるため森林データベースを構築する。森林データベースは、森林小規模所有の多いわが国においては、これ抜きに近代林業は成立しないといえる程の基本インフラであるが、現状その認識は極めて低い。


3.森林再生とバイオマスエネルギー利用促進のための
 21世紀グリーンプラン

  
 以上を踏まえ、持続可能な社会の構築に向けて、人工林を複層林化するための30年計画を提言する。

第1段階(最初の10年)〜森林再生の基盤づくり
 まず所有者に対する皆伐停止(*2)と間伐の義務付け措置を導入した上で、人工林1000万haすべてを公的資金で間伐する(10年間合計1兆円〜1兆5000億円(*3))。同時に森林組合の改革に着手する。それと並行して路網整備を行なう(同1兆円(*4))とともに、森林の境界確定、森林データベース構築、研究・教育・研修機関の拡充を図る(これら合わせて同5000億円)。
 これらが進むにつれ、ネックであった国産材の供給体制が改善され、搬出コストの低下など競争力も次第に甦ることから、主として外材を扱っていた大手の製材会社も国産材を扱うようになろう。また、間伐材の中で付加価値がそれほど高くないとみなされているものについては、公共工事でコンクリートの代わりにこれを積極的に用いるようにする。そうすれば環境保全のみならず、自然景観の向上にもつながり、人々の木材に対する理解をより深めることにも貢献しよう。さらに、最も付加価値の低いものとして従来林地に放置されていた間伐材については、これをバイオマスエネルギー利用に振り向けるよう助成措置を導入する。

第2段階(次の10年)〜人工林の選択と集中
 第2段階ともなれば、森林資源の成熟、森林組合の機能向上、路網・森林データベースの完備などにより、林業の近代化と木材の安定供給体制確立に目途がつき始める。つれて林業の採算性向上はより確かなものとなる。皆伐再造林のコストもこの時期には解消している。これらを背景として、人工林1000万haの間伐を補助金なしで実施する(間伐の場合、造育林のコストが発生しないため、間伐材の売上で伐採・搬出コストを賄えればよい)。また、この段階では樹齢が70年前後となっている森林が50〜100万haに達するので、これを対象に、次代の木を植林するなど複層林化に向けた具体的作業に着手する。
 ただし、急峻な地形や奥地等で路網整備が困難なところでは、依然として間伐の採算がとれない森林(人工林の3割前後と見られる)が残る。こうした森林は林業不適地として、公的資金で強度の間伐を行ない、早期に天然林に復帰させる。

第3段階(最後のlO年)〜複層林移行の本格化
 この段階においては、第2段階のプログラムを徹底させ、複層林移行の作業を本格的に展開する。複層林移行の対象となる人工林は200〜300万haである。また、この頃には、資源がさらに成熟し、採算性も格段に向上しているので、森林資源のカスケード利用、バイオマスエネルギー利用についても、本腰を入れて推進する。

    

おわりに〜グリーンプラン実現に向けて
 
 グリーンプランを実現するには、第1段階で前述の通り約2.5〜3兆円(年間2500〜3000億円)、第2、第3段階でも、第1段階ほどではないにせよ相応の公的資金が必要と推定される。これに対しては、既存予算の組替えによるほか、追加的に必要となる部分について、国家予算全体の中に正しい位置付けを確保しなければならない。そのためには、本プランは、わが国が持続可能な社会の実現へ向けて21世紀中に展開すべき基幹的プログラムの一つであること、本プランヘの支出は、社会的コストではなく、持続可能社会という将来価値実現のための投資と認識さるべき性格のものであること、について、国民的理解を高める努力が大切である。そうしたビジョンをもって21世紀の森づくりのプロセスを進めて行く過程で、残る重要な課題は、税制(環境税を含め)を如何にうまく活用するか、民間資金による投資の道を如何にして広げて行くか、ということであろう。
 複層林が最終的な林形に達するのは、第3段階からさらに50年後である。本プランに国民の総意を結集することが出来れば、今世紀中には複層林化は完了し、わが国森林は持続可能な社会の象徴として輝き続けることとなろう。(以上)


(*1) 人工林蓄積21億立方メートルの35%を10年で伐採、搬出率60%として計算。
(*2) 一定面積以上の皆伐を禁止(例えば、わが国同様地形が急峻なオーストリアでは、0.5ha以上の皆伐許可制、2ha以上の皆伐禁止措置を取っている)。
(*3) 1O万〜15万円/ha。路網が整備されていることを前提。
(*4) 林野庁資料による林道整備費5540億円に加え、人工林700万haを対象にha当り作業道30m敷設(2000円/m)を前提として試算。林道は純粋に森林整備目的に限定し、大規模林道や生活道づくりには用いない。

 

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