長野大学環境ツーリズム学部 大野 晃 教授 講演
「現代山村の現状と地域再生の課題」要旨

(山村の状況)
 総人口の中で65歳以上の高齢者が半分を越え、自主財源が入らなくなり、高齢者福祉とか介護とか医療関連の支出がどんどん増加し、財政維持が非常に困難になってくる自治体を限界自治体といい、集落を存続集落(55歳未満が半数)、準限界集落(55歳以上が半数)、限界集落(65歳以上が半数)、消滅集落(人口・戸数0)の4つの状態に区分して、一つの自治体の全集落をこれでチェックしていくとその自治体の安定度・崩壊度を計る物差しにもなると考え、20年前に問題を提起した。
 ここ数年の状況を見ると、限界自治体化が急速に進んでいる。国立社会保障・人口問題研究所の平成15年12月の「日本の市区町村別将来人口」をもとに私が計算したところ、2030年には全国で144の町村が限界自治体になると予測される。高知県の大豊町もその一つであるが、同町は2006年に限界自治体の第1号になり、高知県の池川町も2007年3月に限界自治体になった。予測よりかなり早く限界自治体化が進んでいると思われる。その背景には三位一体改革による地方交付税の減額があり、集落への住民サービスは一層低下していく。山村が限界自治体化していき、小規模な山村では存続集落が準限界集落に移行し、準限界集落が限界集落に移行し、限界集落に滞留していく、これが山村の実態といえる。

(限界集落の実態)
 私は、65歳以上の高齢者が集落人口の半数を超え(量的規定)、冠婚葬祭をはじめ田役、道役などの社会的共同生活の維持が困難な状況におかれている(質的規定)集落を限界集落とよんでいる。1990年代は西日本を中心に限界集落が問題化してきたが、2000年に入ると北関東、甲信越、北陸、東北、北海道にも問題が出てきている。
 2006年に国土交通省が過疎地域を対象に行った集落調査によると、6万を超える集落のうち 7,878の集落がいわゆる限界集落になっている。その中で、近い将来消滅していくと思われる集落は2,600を超え、そのうち10年以内が400を超えるとされている。
 限界集落の状況を次のように描写したことがある。
 「独居老人が滞留する場と化したむら。人影もなく、1日誰とも口をきかずにテレビを相手に夕暮れを待つ老人。天気が良ければ野良に出て、野菜畑の手入れをし、年間36万円の年金だけが頼りの家計に、移動スーパーのタマゴの棚に思案しながら手を伸ばすシワがれた顔。バス路線の廃止に交通機関をなくしタクシーでの気の重い病院通い。1か月分の薬をたのみ断られ、2週間分の薬を手にアジの干物を買い、杖を突きながら家路を急ぐ老人。テレビニュースの声だけが聞こえているトタン屋根の家が女主人の帰りを待っているむら。家の周囲を見渡せば、めぐら地(家周りの田畑)に植えられた杉に囲まれ、日も射さない主人なき廃屋。苔むした石垣が階段状に連なり、かって棚田であった痕跡をそこに溜めている杉林。何年も人の手が入らなず、間伐はおろか枝打ちすらされないまま放置させれている線香林。日が射さず下草も生えないむきだしの地表面。野鳥のさえずりもなく、枯枝を踏む乾いた音以外に何も聞こえない「沈黙の林」。田や畑に植林させれた杉に年ごとに包囲の輪をせばめられ、息を凝らして暮らしている老人。これが病める現代山村の偽らざる姿であり、<限界集落と沈黙の林>はまさにその象徴である。」

(限界集落の増加がもたらす問題)
 一つは、神楽など伝統芸能・伝統文化が喪失・衰退し、心の支えがなくなること。 二つは、広葉樹、棚田などの山村の原風景が喪失し、日本人の叙情性、感性を培う土台がなくなくなること。三つは、人がいなくなり耕作放棄地が増大し、間伐や枝打ちされない放置林が増加し山が荒廃する。そうすれば山に保水力がなくなり渇水問題や、鉄砲水による水害、林地崩壊を招き、川や海の環境悪化により下流域の都市住民や漁業者の生産と生活が脅かされること。「山と川と海は、自然生態系として相互に連関し有機的に結びついている総体的存在である」ことを示しており、その認識の重要性がいっそう増してきている。

(山村再生の方策)
 55歳以上が半数以上の「準限界集落」の段階にあるときに行政が存続集落に再生することが地域再生のためには重要であり、それが「予防行政」でありそれこそが行政の本来のあり方である。これまでの行政は国が決め、それを都道府県が市町村に下ろしそれを地域住民が受け取るという形になっている。自分達の地域は自分達の手でどう活性化していくか、そのための自分達の政策を作っていくことの重要性を20年前から提唱しているが、国、県、市町村にお金がなくなっている今こそ重要である。そのためには、それを企画立案できる人材の育成が必要であり、そのためにはプロジェクトリーダーが必要であり、県の職員の活用が考えられる。
 限界集落に対してはどうするか。限界集落の住民が町へいけば幸せになるという人がいる、実態調査をした結果では集落に住みたいという人が圧倒的に多い。従って、そういう住民がそこで住めるように支援していくことが必要である。買い物や金の出し入れ、食事など「ミニマムライフ」を支える仕組み作ることが必要である。多目的共同利用施設を作り、そこで生活に必要な最低限のことが賄えるようにし、集会もできるようにする、そうすれば安心して生活できる。
 農協の支所の廃止を契機にそれを活用して多目的共同利用施設に再編した例もあるが、知恵を出せばいろんな方法がある。
 遅れても、人間と自然が共に豊かになるような複眼的視点で考えていく必要がある。