京都大学大学院農業研究科森林科学専攻 講師 高柳 敦 さん
(研究テーマについて)
柿を食べるサル
(赤座久明さん撮影、転用禁止)
シカによる植生への影響及び森林被害への防除。クマはぎの被害について研究しています。

(シカにおける被害の歴史)
サルによるダイコン食痕
(赤座久明さん撮影、転用不可)
線状電気柵
(赤座久明さん撮影、転用不可)
 江戸時代は一般庶民は鉄砲をもっていなかったのでシカによる被害はかなりあったのではないかと想像されます。イノシシやシカから農業被害を防ぐために作った猪垣(ししがき)などを残っていることからも分ります。
しかし、明治時代に入って、鉄砲が一般の人に解禁になりシカやイノシシをとりまくりまくりました。その結果、各地でシカやイノシシ等の野生動物が絶滅したり、絶滅寸前まで追いつめられたました。その後、絶滅しかかるぐらい個体数が減ったので、しばらくの間はシカが山村地域にいないように一時的に見えました。このように人間とシカとは接することが少なく、数が減ったシカは、法的にメスジカは取れなかったこともあり、戦後から見ると5%の割合で増えていたと考えることができます。このように増え続けていましたが、70年代までは狩猟によりかなりのシカがとられました。しかし、狩猟人口が、70年代をピークに、80年代から減少してきたことにともない、狩猟によってシカがとられることが減少し、シカが多くなりました。なぜ狩猟人口が減ったかというと、他にレジャーがいっぱい増えたことと、殺して食べることに対する抵抗感がでてきたことなど、時代の変化により、昔は貴重なタンパク源だったシカ肉が、牛や豚などの肉にその座を奪われ、売れなくなり、結果的にシカを取らないという悪循環に陥っています。つまり、シカに商品価値がなくなり取らなくなったこととハンターの減少、そして地球温暖化などで生息環境が良くなったため、シカの数は増えている状態です。


(農業における被害対策について)
落ち穂拾いするサル
(赤座久明さん撮影、転用不可)
 シカの群れはせいぜい、2、3頭です。昔から森林における被害はありましたが、近年、個体数の増加により、シカが農地に出てきて被害を及ぼしています。シカは、人間が食べるものは何でも食べれると考えて下さい。シカに農地の食べ物を食べさせず、その味を覚えさせないことが大切です。
まず対策として、シカを農地に近づきにくくするために、農地の近くの草を刈り、シカの食べ物になるようなくずをおかないことが大切です。また、柵を張る場合は、5段張り、高さが1.5m以上の電気柵をはることが比較的効果があると言われています。さらに柵の下の所にスカート部分をつけるとシカが飛びづらくなり、農地に入りづらくなるので効果的です。この電気柵は必ずメンテナンスをして下さい。シカが近づいても電気が流れていなくて意味がありません。電気柵は、実は心理柵でもあるのです。怖いと思わせることが大切です。大切なのは野生動物の気持ちになって考えることです。野生動物は起きている間ずーとえさを探している状態です。欠点を見つければそこから侵入してきます。

(森林における被害対策について)
落ち穂拾いするサル
(赤座久明さん撮影、転用不可)
 森林においては、林業そのものに対する被害、自然植生、観光にとって大切な植物が食べられてしまう被害があります。森林内での被害対策は、ワイルドライフマネージメント(野生動物の保護・管理)という考え方が必要です。これは、@個体数をどうするか?A被害をおこさないようにするための管理、B住んでいる山の環境をどうするかという生息環境管理という3つのものを組み合わせで被害を押さえて行く方法です。今までのように柵を作る、駆除をすると言うだけでは、長期的な視点では解決策になりません。野生動物を保護管理し被害を抑制していくことが大切です。
また、林業に関しては、幼齢造林における単木保護と造林地全体を守る方法が考られます。山での防除はメンテナンスを前提にしないと成り立ちません。2、3年は特にしっかりとした対策が必要です。柵をたてる場合は、きちんと地域の地形をよく見て適切に張って下さい。例えば、規格では3mごとに杭を標準的に打つとしても、地形などの状況を考慮して、時には規格より短い長さで杭を打ったりすることも大切です。また、ネット等を張る場合は、シカの奥歯が入らずネットがかみ切れないようなマス目(3cmや5cm枠)に設定することが大切です。その他、幼齢造林における単木防除の場合、1本5円ぐらいのポリネットをかぶせる方法があります。ネットごと引きちぎられるということもありますが、だいたいの場合は、引きちぎれなくてシカがあきらめるという状態です。夏の時期は木も生長しますので、このネットをはずしておきますが、8月下旬から5月下旬までのシカによる被害が多い時期に被せておくと有効です。なぜだかよく分かりませんが、東の方ではこの方法を使用すると食害が少ないです。


(無被害には不思議な無被害があるが、被害には不思議な被害はない)
 私はよく、「無被害には不思議な無被害があるが、被害には不思議な被害はない」といっています。対策が完璧だとしても破られる場合があります。その場合は必ずどこかに問題があるので、その原因を突き止めて対策して下さい。採点するのはあくまでも野生動物です。どんなに完璧に人間が対策をしたとしても入られたら終わりです。また逆に、たいした被害対策をしていなくても被害がない場合があります。このような無被害の成功事例を参考にする場合は、たまたまそこで被害がなかったという場合も多いので、参考にして取り入れる場合は十分に注意してください。

(住民への情報伝達とその協力体制について)
 よく東京の会議に行くのですが、東京の情報は地方の情報の集め方が足りないと感じています。現場のニーズをきちんと把握していない場合が多いと思います。現場に行かない人はダメです。現場によって状況は違うのです。現場に行って専門家が見れば、安くてすぐに出来る方法などを教えたり、ちょっとした対策が出来るのです。このようなちょっとしたアドバイスすら出来ないのが今の現状です。私がやっている関西カモシカの会のように、被害に遭っている山村住民だけでなく、興味を持っている都市住民も巻き込んで、みんなで野生動物について考え協力していくことが大切です。

(野生鳥獣と人間が共生していくのに必要なこと)
 @個体数管理、A被害管理、B生活環境管理、と野生動物の価値を高め、野生動物中心とした我々の生活の組み直しがを行うというということ、これを私はC野生動物文化と呼んでいますが、この4つについて考えていくことが共生するために必要です。行政はあくまでも器を提供するだけで、方法論については地域の住民が決めることです。短期的、中期的、長期的目標を専門家のアドバイスを受けながらすることです。
農林業者の立場からすると野生動物はいるものと考えたくないかもしれませんが、重要なのは、野生動物の存在を認めることです。

(キーワード、将来展望)
新しいことを構築する場合、これからは野生動物に興味を持っている一般市民も巻き込んでいかないとことが進展しません。問題は野生動物とどういう関係を構築したいのかによります。また、目の前で被害にあっている人は、被害対策をしっかりしてください。そのポイントとしては、@完璧な方法はない。A業者任せ、規格任せを減らす。B野生動物の気持ちになる。C安かろう悪かろうにしない。D高かろう良かろうではない。という点に、注意して対策を行って下さい。

*この文章は、赤座久明さんから伺ったお話しを中心にまとめたものです。
*掲載されている写真は赤座久明さんが撮影したもので、転用禁止

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